闇の中に佇む、ヘルメットとドラム缶を抱えた異国の男
それは、出発して三日目のことだった。すべては、チェ−ンが伸びていたことから始まった・・・。
買ったとき既に使い古されていたのだろう。気が付くとそれは無様に垂れ下がっていた。
もうこれ以上調整できないとこまでキテる。ここで俺の灰色の脳細胞はフル回転をする。
この判断ミスが後々まで尾を引くことになる。
時は夕刻。
そのときは突然やってきた。アクセルに手応えがなくなる。途端にスピードが落ちる。「パワーダウンだとぉっ!!」
停止して原因を探る。すぐに判明。
ガス欠であった・・・・(涙)
そう、急ぎすぎて燃費が極端に落ちていたのだ。
アベレージ80km/hなら250kmは楽勝でもつのに、メータは無情にも
220kmを指していた。
「冗談ではない!」
気を取り直して、状況を把握する。 あたりには木も生えていない、高さ1m程度のブッシュが点々としている。 それ以外に目に付くものは、まっすぐに伸びた道路のみ。 交通量は夕暮れ時ということもあり、30分に1台といったところだ。けっこう交通量はあるほうだろう。 そうこうしているうちに一台の車が、目の前に停車した。降りてくる。
「どうした?故障か?」
「いや、多分ペトロ(ガソリンのことをこの国ではそう呼ぶ)が無くなったんだ」
「そうか、分けてやりたいが、ディーゼルだしな。」
ここでふたたび、灰色の脳細胞をフル回転させる。
・・・数時間後、冒頭の
町まで乗せていってもらい、ペトロを手に入れ、引き返すまではまったく問題なかった。
NO PROBLEMである。
問題は、ブッシュの陰に隠したXT600が見つからないのである。
無理もない、乗ってる車のライト以外の明かりが全く無い闇の中である。月明かりすらない。
道路を数メートル外れたところに何があろうと見えるわけがない。
明らかに通り過ぎたところで、降りて戻ることにする。徒歩で探すつもりであった。
手持ちの明かりはマグライト一本。
もはやバカ以外の何者でもない。
食料、水なしで何もないところに突っ立っている自殺行為寸前のバカを救ったのは、
その夜四台目の車の女性ドライバーであった。
乗せてもらって15分くらいしたとき、突然Uターンをするではないか!何事か!?
まさかっ!!
こうして、なんとか無事に(?)アリスに到着した(2度目)俺が宿を探して、翌日のチェーン交換に備えて眠りについたときはすでに翌日であった。
不幸なことにその金曜日はノーザンテリトリーでは祝日で、当然店が開くことは無かった・・・。